1.背景
近年、科学研究分野において、研究プロセスのデジタルトランスフォーメーション(DX)や実験室自動化(Laboratory Automation)のトレンドが急速に拡大しています。
研究DXや実験室自動化はエラーの低減、再現性の向上、スループットの向上に役立ち、研究開発プロセスを効率化する重要な技術として注目されています。また、内閣府の「科学技術・イノベーション基本計画」においても、研究DXの推進に向けた取り組みが積極的に進められています(※1)。
しかし、研究DXや自動化のためのシステム導入には、以下のような課題があります。
- 研究DXを行いたいが、何からやればいいのかわからない
- 自動化システム導入のための初期費用が高額
- 大規模な自動化システムを導入しても微調整ができず、様々な研究プロセスに活用することが難しい
そこで、ゲノム編集技術を活用し社会課題解決に取り組むスタートアップ企業、プラチナバイオ株式会社と連携し、研究者のニーズ調査や、手軽にカスタマイズ可能な自動化システムを構築することにより、研究開発プロセスのあるべき姿を分析し、その実現に向けた技術の検証を行いました。
プラチナバイオ(PtB)について
PtBは、広島大学ゲノム編集イノベーションセンター・山本卓教授らの最先端ゲノム編集技術を核にして設立されたスタートアップ企業です。独自のバイオDX技術とゲノム編集技術を梃に、
- 非モデル生物を含むあらゆる生物のゲノム情報の解読
- 目的の生物機能に関わる遺伝子を特定
- ゲノム編集による機能向上
の3点を一気通貫で行い、社会課題を解決し得る生物機能をデザインするプラットフォーマーとして、様々な事業パートナーとの共創事業を推進しています。
出典
※1)内閣府Webページ 研究DX
2.取り組みの概要
今回の取り組みでは、「研究DXをどのように進めたらいいか分からない」「費用対効果の方いプロセス自動化をしたい」という課題に対し、業務分析を行い、ニーズマップから研究プロセスのあるべき姿を明確化しました。そして、その実現に向けた支援として自動化システムの構築を行いました。
研究DXニーズマップの作成
研究者のニーズを特定し、研究DXソリューションが目指すべき方向性を決定するためのニーズマップを作成しました。ニーズマップは、バイオ系研究者やマネジメント担当者と共に開催したアイディエーションワークショップやアンケート調査をもとに、研究プロセスに対する潜在的なニーズを分析することにより作成しました。
研究者とマネジメント担当者のニーズを整理すると、大きく4つの種類のニーズがあることがわかります。
- 研究開発の仮説検証サイクル強化
- 研究開発支援のマネジメントの強化
- 組織力を強化する個のアプローチの強化(研究者から組織へ)
- この研究開発を強化する組織的アプローチの強化(組織から研究者へ)
作成されたニーズマップから、研究開発プロセスのあるべき姿には3つの重要な要素があると考えています。
- Speed:研究開発サイクルをスピーディに完遂する
- Support:マネジメントによる研究開発の目標達成を支援
- Synergy:個々の知見・スキルを組織に還元
これらのあるべき姿と現状を比較することで、様々な研究開発プロセスの現場における課題を発見できると考えています。
自動化システムの構築
ニーズマップにおける「研究開発の仮説検証サイクル強化」の取り組みとして、自動化システムを構築しました。自動化の対象としたプロセスは、バイオ実験において頻繁に行われるDNAサンプル電気泳動後のゲル切り出し作業です。この作業では発がん性の試薬を扱うため、自動化することで作業効率化だけでなく、発がん性物質への曝露リスクが大幅に低減され、実験の安全性が向上します。さらに、ロボットのみで作業を行うことで人間由来の不純物の混入のリスクも低減されます。
ゲル切り出し作業を自動化するロボットにはDobot Magicianを採用しました。Dobot Magician は、コンパクトで低価格な4軸ロボットアームで、STEAM教育から産業用途まで幅広く利用されています。操作は付属ソフトウェアで簡単に行うこともでき、別システムと連携させるなどカスタマイズしたい場合にはプログラミングで複雑な処理を行うこともできます。
Dobot Magician
以下のようにロボットを構成し、プロトタイプを作成しました。
ロボットの構成図
エンドエフェクタの構成図
ロボット実際の動画
ロボット制御システム(イメージ)
研究者へのヒアリングと、アジャイル的なプロトタイプ開発により、短期間で安価なロボットを利用した実験作業の自動化をすることができました。
しかし、実際の研究プロセスに導入していくことを見据えると以下のような課題も明らかになりました
- 実験がうまくいっているかの確認や緊急停止システムが必要
- 実験に使う材料によってロボット操作の細かいパラメーター調整が必要
これらの課題は、より高性能なロボットを採用したり、AIや画像処理技術を利用するなど、プロセスに応じて費用対効果の高い選択をしていくことが重要になります。
3.今後の展望
ニーズマップをもとに研究開発プロセスの「あるべき姿」から現状の課題を発見していくプロセスは、様々な研究開発現場で有効な手法だと考えています。今回の知見を活かし、お客様の研究開発プロセスを診断し現状の可視化と課題発見を行うコンサルティングサービス「ラボ診断ソリューション」を提供いたします。
また、研究開発プロセスの診断の中で顕在化した課題へのサポートとして、研究開発サイクルのスピードを向上するためのソリューションである自動化システムや、個々のスキル・知見の形式知化するためのソリューションであるLIMS (LaboratoryInformation Management System、実験室情報管理システム)の導入支援を行います。
研究DXに関するお問い合わせは、下記フォームからお気軽にご連絡ください。