人・社会・テクノロジーの未来を変える、はじまりの場

子どもたちに夢と実践の場を

電通総研は「TECH KNOCK(テックノック) in 青森市」を開催し、テクノロジーの体験ブースと、社会課題の解決を考える中学生向けの未来創造ワークショップを設けました。会場で運営パートナーとして子どもたちを見守っていた岡本弘毅氏(株式会社エデュソル 代表取締役)に、後日、教育とテクノロジーの関係性や保護者の方の役割についてお話を伺いました。

都市部ではない地域で、領域の掛け合わせに挑戦

岡本さんは普段どのような活動をされていますか?

ここ5~6年は都市部ではない地域に足を運び、「クリエーティブ×教育」や「テクノロジー×教育」をテーマに取り組んでいます。

例えば先日、「こども書店プロデュース」というプロジェクトをおこないました。スコップ・スクール※1の子どもたちが書店を訪れ、店長や経営陣から悩みや課題をヒアリングした上で、選書やキャッチコピー、店頭の企画までを考え、1か月間の売上達成を目指すという取り組みです。プロのコピーライターから「視点を変える」指導を受けたり、キャラクターデザインの知識を活用したりと、子どもたちの成長を先生たちが後押ししつつ、紙の本の売上減少に悩む書店に希望を届けられるようにデザインしました。ネット書店にはないセレンディピティ(思いがけない発見)を味わってもらうのも狙いです。

テクノロジーを使う教育というとプログラミング教育などをイメージしますが、より日常の中に溶け込んでいるかのようなアプローチですね。

実は20年ほど前に、いわゆるプログラミング教室をやっていたのです。でも、当時の参加者は男の子ばかりで、ロボット制御の分野では特にそうでした。逆に、デザインやアート系の講座を開くと女の子ばかり集まる。では、両方を掛け合わせてみようと「ロボットとデザイン」のプログラムをやってみたのですが、結果はどっちつかずとなりました。どちらの魅力も薄れてしまったのです。

そこで改めて、「そもそもなぜロボットが必要なのか」という視点に立ち戻って考えてみました。教育的かつ社会的意義があり、答えが多様にあるオープンエンドな課題設定で、子どもたちが自分で答えを見つけられることをキーにしようと思っていた時に出会ったのが、パラスポーツのボッチャでした。障がいのある人がボッチャで生活を支えることができる――これは素晴らしいことだと感じ、テクノロジーで競わせる形で周知できないかと考えました。ボッチャとロボットを掛け合わせれば、スポーツやデータサイエンス、画像解析など、幅広い領域に展開できます。さらには人間とロボットが一対一で対決する新しいスポーツにもなり得る。こうした流れから、2019年頃に「ロボッチャ」というプロジェクトにたどり着きました。

  • ※1 小学生対象のクリエーティブ探究スクール。「正解のない問いに答える力」を伸ばすことを目的に、アーティストやクリエーターなどさまざまな分野でクリエーティビティを発揮している「プロナビゲーター」たちと、物事に対する多様な視点と主体的な想像力を育む。

地域を好きになるきっかけは体験から

岡本さんの取り組みが、体験を重視している背景が理解できました。「TECH KNOCK in 青森市」のイベント当日の子どもたちの様子は岡本さんの目にどう映りましたか?

イベントがいざ始まってみると、子どもたちは目を真ん丸にしてとても緊張していましたね。11人が集まりましたけど最初はシーンと静まり返っていて「今日はこのままかな」と思ったほどです。それでも徐々に打ち解け、最後にはみんな仲良くなって帰っていきました。

科学部の二人は、解散後に戻ってきて「もう1回ロボッチャで遊んでもいい?」と聞いてきました。さらには「来年もまたある?」と。あれはうれしかったですね。「市長にまた来年もやってくださいって自分たちで言うんだ」「伝え方がわからなかったら今日やったように生成AIで調べてみて」なんて笑いながら話している姿に、ワクワク感が根づいていたのをしっかりと感じました。

事後アンケートでは「青森が好きになった」との回答が目立ちました。

そうですね。自分たちの住む地域にある課題をテクノロジーで解決できるかもしれないと実感してくれたことが大きいのだと思います。

地域の課題というと、どこか自分からは遠い大きなものという印象をもちそうですが、テクノロジーを使えば、意外と自分でもできることがある。そういう自己効力感を高められたことがよかったように思います。これは地域と教育の新しい形といえそうですね。
TECH KNOCK in 青森市でおこなわれた「中学生向け未来創造ワークショップ」の様子
都市部ではない地域が抱える問題については、どう捉えていますか?

例えば弘前市では、一時期、美容専門学校がゼロになる危機にありました。運営の継続が難しくなり、引き継ぎ先を模索したもののなかなか実現せず、「このままでは弘前の若者が美容師になるには青森市まで行くしかない」と懸念されていました。最終的には、地域企業や関係者の支援により存続が決まりましたが、教育の機会や学ぶ場が減れば、その分だけ若者は都市部へ流出してしまいます。都市部とそうではない地域では経験値に圧倒的な差が出ますし、特に新しいテクノロジーに触れる機会やクリエーティブな仕事の数が少ない。身近にそのような仕事をしている人が少ないため、子どもたちは職業としてイメージしづらい状況でもあります。

今回の「TECH KNOCK in 青森市」では、青森の子どもたちと東京にいるソフトウェア開発者をVRでつなぎ、メタバースでのコミュニケーションやVR空間で3Dモデルを操作するプログラムを体験しました。それによって、物理的な制約を超えて人びとが協働できる可能性をイメージし、青森からでも都市部と同じように仕事に挑戦できる感覚を得られたのではないでしょうか。実際、プログラムの最後におこなった未来創造ワークショップでは、初めて触れたテクノロジーを掛け合わせた独創的なアイデアが子どもたちから生まれていました。これからも新しい技術から刺激を受けて、身近な問題を解決する子どもたちらしい発想が生まれてくることを期待したいと思います。

子どもたちには「夢」を、大人には「アンラーン」を

岡本さんは、イベント企画に際して、どのような思いをおもちですか?

子どもたちに「夢をもってもらう」ことを心がけています。僕はよく「ダグラス・アダムスの法則」を紹介します。生まれた時から元々あるテクノロジーは自然に受け入れ、15歳から35歳までに登場した技術は刺激的だと感じ、それ以降の年齢になると違和感しかない――というものです。技術の進歩が目まぐるしい現代において、子どもたちは使えるものがどんどん増えていく。これはとてもよいことだと思います。

一方で、デジタルがすべてでないことも伝えています。デジタルを使いこなすために、アナログな思考こそが今後ますます価値をもちますからね。

保護者の方にはどういったことを伝えているのでしょう。

逆に「これからは子どもたちにとって残酷な時代になる」と伝えています。経済や社会保障、気候変動など、向き合うべき問題は山積みです。だから親世代はむしろ自分の考えをアンラーン※2しなければならない。偏差値至上主義に縛られるのではなく、自分で問いを立て、判断し、行動できる力を養うことが求められています。

保護者ができる、将来を見据えた具体的なサポートや声がけはなんでしょうか?

「四つ杭」と「肥やしの声がけ」があります。四つ杭とは、まずは小さな枠組みの中で自由を与え、学年に応じて少しずつ広げていく考え方です。年齢や役職が上がるにつれて求められることが増えてくる世の中と同じスタイルで、これにより、社会に出た時に適応できる準備が整います。もちろん家庭内のルールはあってもよいと思いますが、家庭でのルールと世の中のルールがかい離しすぎると、子どもが社会に出てから対応できなくなってしまいますから。

もう一つの肥やしの声がけとは、子どもが糧にできる言葉をかけてあげるということです。「肥えがけ」ですね。小さい頃に受けた言葉は、良くも悪くもすごく覚えていませんか?「大丈夫、あなたならできる」と信じて伝えるだけで、子どもは前を向けるのです。逆にすべて指示してしまえば、子どもは自立できません。もちろん怒るための声がけもあっていいと思います。失敗を許し、その原因を一緒に考え、次の挑戦に結びつける。これが本当に大事だと思います。

  • 2 これまでに身につけた知識や価値観を取り除き、思考をリセットすること。新しい知識や考え方のインプットの質を高めることを目的とする。

未来に向けて

子どもたちの好奇心をもっと刺激するには、何が必要だとお考えですか?

本来はテクノロジーを使いこなさないといけないのに、テクノロジーに使われていませんか?例えば、アルゴリズムに支配される危うさが懸念されます。動画投稿サイトのアルゴリズムによって、見える世界が偏ってしまうのはよく言われていることです。生成AIも同様に、テクノロジーの進化の加速は止められなくなってきており、進化の上限値がわからない。子どもたちにどのような影響を及ぼすかがまだ見えないため、進化し続けるテクノロジーとの適切な距離感を注視しています。

これからの時代に求められるのは、どちらか一方に偏るのではなく、アナログな思考の重要性とデジタルの有用性をバランスよく取り入れていくことですね。両者の長所と短所をきちんと理解し、互いの強みを生かし合うことで生まれるのがクロス化です。アナログとデジタルという異なる知識や価値観が交わることで、新しい発想や方法が生まれると思っています。

最後に、今後の展望を教えてください。

海外で活躍できる子どもを育てたいなと思っています。次の世代をしっかりと育てていかなければ、日本の存在感が少しずつ薄れていってしまうように感じるんです。もちろん当時の国際的な状況も関係していますが、僕たちが子どもの頃の日本には経済的にも勢いがあり、社会全体に期待感やワクワク感がありました。でも今の子どもたちはどうでしょうか。その頃のような高揚感や希望をもちにくくなっているように思います。未来にワクワク感をもてる大人に育ってほしい。そんな瞬間を与えることが、私たちの仕事なのではないでしょうか。

取材を終えて

岡本氏の活動の根底には、「子どもたちに夢と実践の場を」という強い思いがありました。テクノロジーの使い方をただ教えるのではなく、子どもたちが気づきを得る場をつくり、サポートすることで、子どもたちは失敗を恐れず、自らの手で次の社会をつくり出していくようになる。岡本氏は静かに、熱く、そして力強く、次の世代を後押ししているのです。

「TECH KNOCK in 青森市」とは
電通総研が青森市との共催で2025年8月に開催したイベント。社会課題の解決にテクノロジーをどう生かすかを考える「中学生向け未来創造ワークショップ」と、テクノロジーを使った複数のアトラクションが体験できる「テクノロジー体験コーナー」で構成。AIとウェブカメラを使った運動能力測定「DigSports」、ヘッドマウントディスプレーを使ったメタバース空間散策に加え、株式会社エデュソルが展開するロボット×プログラミングでパラスポーツの「ボッチャ」をおこなう「ロボッチャ®」の体験ブースが出展された。
テクノロジーの扉を、たたいてみよう。TECH KNOCK in 青森市

Text by Keisuke Sumi
Photographs by Masaharu Hatta

プロフィール

岡本 弘毅

おかもと・こうき

一般社団法人ロボッチャ協会 代表理事/株式会社エデュソル 代表取締役/株式会社スコップ 代表

世界に羽ばたく「倭僑」の育成のため、従来の教育だけではなくクリエーティブ教育やSTEAM教育、グローバル教育を中心に、3歳から社会人まで年齢に合わせた教育プログラムを開発・提供している。NPO法人子ども大学水戸の代表も務める。

鷲見 圭祐

すみ・けいすけ

研究員/プロデューサー

2021年に電通国際情報サービス(現 電通総研)に入社。主にクラウドベースのコミュニケーション基盤を活用したCRMやコールセンターシステムの構築に従事。2025年より現職。「科学技術が社会構造に与える影響」「科学的根拠に基づいた意思決定(EBPM)」に関心をもつ。理学修士。

川村 健一

かわむら・けんいち

研究員/プロデューサー

埼玉県生まれ。2023年1月より電通総研。クリエイティブディレクター、クリエイティブテクノロジスト、アートディレクター、デザイナー、ビジュアルアーティスト等のキャリアを活かし、「アート」「イノベーション」「次世代」などをテーマに活動。著書に『ビジュアルクリエイターのためのTOUCHDESIGNERバイブル』(共著、2020年、誠文堂新光社)がある。