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インクルージョンに関する期待と評価のギャップに隠れた意識の変化を探る

機会の平等、多様な価値観、多様な属性への寛容性、子どもの権利など、インクルージョン(包摂性)に関する評価が上昇する一方で、期待は低下している。クオリティ・オブ・ソサエティ指標の3年間の時系列変化から、インクルージョンに関する期待と評価のギャップに隠れた意識の変化を探りました。

◎「クオリティ・オブ・ソサエティ指標2025」調査レポートはこちら

1. 社会の質に関する期待と評価のギャップ

本記事では、電通総研が実施した「クオリティ・オブ・ソサエティ指標」の調査において「目指すべき日本社会やご自身の生活について」の各質問に「そう思う」「ややそう思う」と回答した割合の計を「目指すべき社会像から見られる『期待』(以下、期待)」とします。同様に「現在の日本社会やご自身の生活について」の各質問に「そう思う」「ややそう思う」と回答した割合の計を「『社会の質』についての『評価』(以下、評価)」とします(質問文一覧は記事後ろの「質問の内容と回答選択肢の一覧」を参照)。

また、期待と評価の差を便宜的に「社会の質に関する期待と評価のギャップ(以下、ギャップ)」とします。ギャップが小さいほど期待と評価が近い状態といえますが、期待が評価より大きい場合は、期待の低下によってもギャップは縮小し得るため、解釈には注意が必要です。

2023年から2025年の時系列変化を見ると、インクルージョンに関する項目のギャップがすべて縮小しました。特に「自分と異なる人種・国籍・宗教・性別・年齢の人に対する寛容」が15.1ポイント、「多様な価値観・生き方の尊重」が9.6ポイントと、他の項目に比べ大きく縮小しています(表1)。

このインクルージョンに関する項目のギャップ縮小という特徴的な動きに着目し、同項目の評価と期待の変化を詳しく見ていきます。

2. インクルージョンに関する評価は上昇

2023年から2025年の時系列変化を見ると、インクルージョンに関するすべての項目において評価は高まっています。特に「自分と異なる人種・国籍・宗教・性別・年齢の人に対する寛容」が6.9ポイント、「多様な価値観・生き方の尊重」が5.5ポイントと、二つの項目において5ポイント以上高まっていることがわかります(表2)。

3. インクルージョンに関する期待が低下

一方で、期待の時系列変化を見ると、すべての項目で低下しました。特に「自分と異なる人種・国籍・宗教・性別・年齢の人に対する寛容」が8.2ポイント、「多様な価値観・生き方の尊重」が4.1ポイントと他の項目に比べて低下幅が大きくなっています(表3)。

インクルージョンに関する項目のギャップが、他の項目に比べて顕著に縮小したのは、評価が高まっただけではなく、期待が低下したためでもありました。

4. 調査結果からの考察

社会の質に関する期待と評価のギャップを2023年から2025年の時系列で見ると、インクルージョンに関する4項目(「教育や就業における機会の平等」「多様な価値観・生き方の尊重」「自分と異なる人種・国籍・宗教・性別・年齢の人に対する寛容」「子どもの権利が守られる社会」)のギャップはいずれも縮小していました。

その内訳を評価と期待に分けてみると、評価はすべての項目で上昇している一方、期待はすべての項目で低下しており、ギャップの縮小はこの両方の変化が生じた結果であることがわかります。

特に「自分と異なる人種・国籍・宗教・性別・年齢の人に対する寛容」「多様な価値観・生き方の尊重」の2項目においては、他の項目に比べて評価の上昇幅・期待の低下幅がともに大きいことが特徴です。

評価が上昇した背景としては、異なる属性の人びとへの寛容や、多様な価値観・生き方の尊重に関する社会的議論が増えていることや、教育機関・自治体・企業などで進むDE&I(Diversity, Equity and Inclusion)の取り組みが可視化される機会が増えていることなど、社会的文脈の変化が影響している可能性があります。ただし本調査は因果関係を直接示すものではないため、評価上昇の要因については慎重な解釈が必要です。

同時に期待の低下についても、慎重な解釈が必要です。社会がこうあるべきと考える人の割合が減っているのは、理想の実現が容易でないと感じる経験が積み重なる中で、適応的選好形成※1によって期待が調整されている可能性も考えられますが、本調査のみでその要因を特定することはできません。近年、欧米などでDE&Iに対する議論の変化が見られることも、社会全体の認識に間接的な影響を与えている可能性があります。ただし、日本における期待低下との関連は慎重に見極める必要があります。

異なる属性の人びとへの寛容や、多様な価値観・生き方の尊重に関する期待の低下は、社会の分断や排他的行動につながるリスクがあります。この2項目で特に変化が大きかった要因や、どのような社会的・心理的影響が関わっているのかは、今後さらに検討する必要があります。

社会の評価と期待の双方を継続的に追跡していくことは、今後の社会の質に関する研究や議論の基盤となり得ます。中でも期待の変化は社会の意識動向を把握する上で重要な指標となるため、今後も継続的に観察し、背景にある要因を丁寧に考察していくことが求められます。

  • 1 適応的選好形成(Adaptive Preference Formation)とは、手に入らないものや過酷な環境に対して自分の欲望や期待を無意識に引き下げ、その状況に適応して満足を得ようとする心理的メカニズムのこと。政治哲学・社会科学・経済学の領域でJon Elster, Amartya Sen, Martha Nussbaumらによって論じられている。

Text by Keiichi Masuda
Photograph by Clay Banks on Unsplash

調査概要

調査時期 2025年6月23日~6月30日
調査方法 インターネット調査
対象地域 全国
対象者 18~79歳の男女 ※学生を含む
サンプル数 12,000人(都道府県×性年代の人口構成比に合わせて回収)
調査会社 株式会社 電通マクロミルインサイト
  • 表内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。
  • 本調査(12,000サンプル)の標本サイズの誤差幅は、信頼区間95%とし、誤差値が最大となる50%の回答スコアで計算すると±1.3%となります。

お問い合わせ先

本調査に関するお問い合わせ先
qsociety@dentsusoken.com
担当:増田、中川、山﨑
g-pr@group.dentsusoken.com
コーポレートコミュニケーション部