「感情労働」という言葉をご存じですか?職務上の役割に合わせて感情を装う労働のことを指します。今回、電通総研が実施した「デジタルコミュニケーションと感情労働に関する意識調査」からは、職場風土と感情労働のあいだに一定の関連が見られることが確認されました。本記事では、働く人の感情がどのような要因から影響を受け、どのような職場で感情労働が生じやすいのかという傾向を紹介します。
◎「電通総研コンパスvol.16デジタルコミュニケーションと感情労働に関する意識調査」レポート
1. 仕事中に感情が影響を受ける相手は肯定的/否定的いずれも「上司」がトップ
仕事中に感じる肯定的・積極的な感情が何から影響を受けているか、その要因や相手を尋ねたところ、複数回答では、上司が38.8%ともっとも高く、続いて職場の雰囲気(32.3%)、同じ部署の先輩(27.1%)という結果になりました。また単一回答では、上司が21.3%ともっとも高く、続いて職場の雰囲気(16.2%)、お客様(10.5%)という結果になりました。
次に、仕事中に感じる否定的・消極的な感情が何から影響を受けているか、その要因や相手を尋ねたところ、複数回答では、上司が34.7%ともっとも高く、続いて職場の雰囲気(19.0%)、社会情勢(18.4%)という結果になりました。単一回答では、上司が24.6%ともっとも高く、続いて社会情勢(13.7%)、職場の雰囲気(11.8%)という結果になりました。
また、ご自身の働く職場の風土(雰囲気)と上司の関係について尋ねたところ、「自分の働く職場の風土(雰囲気)は、上司次第で決まると思う」と回答した人の割合は72.3%、「自分の働く職場の風土(雰囲気)は、上司以外の要因で決まると思う」と回答した人の割合は27.7%という結果になりました。
2. 風土が良好ではない職場では感情労働が発生しやすい
ご自身の働く職場の風土(雰囲気)について、「自分の働く職場の風土(雰囲気)は良好である」と感じる人は63.2%、「自分の働く職場の風土(雰囲気)は良好ではない」と感じる人は36.8%でした。
職場風土が良好だと感じる人/良好ではないと感じる人で、感情労働をおこなっている割合について比較すると、「自分は職場で本当の気持ちを抑え、装った感情で過ごす」のは、職場風土が良好だと感じる人では68.3%、職場風土が良好ではないと感じる人では79.5%となり、11.2ポイントの開きがあります。
こうした結果から、職場風土が良好ではない環境では、働く人が本当の気持ちを抑えて装った感情で過ごす場面が多い傾向があることが読み取れます。ただし、今回の調査は横断的なデータであるため、その因果までは断定することはできません。それでも、職場風土と感情労働のあいだに一定の関連があることは示唆されました。
3. 6割の職場において情緒的疲労対策は十分に実施されていない
ご自身の職場において情緒的疲労に対する施策が十分おこなわれているかについて尋ねたところ、「そう思う」が38.1%、「そう思わない」が62.0%となり、6割の職場で情緒的疲労対策が十分に実施されていないことが示されました。
4. まとめと考察
本記事では、「デジタルコミュニケーションと感情労働に関する意識調査」のごく一部の調査結果として、職場風土と感情労働に関するいくつかの特徴的な傾向を紹介しました。
一つ目に、肯定的・積極的な感情、否定的・消極的な感情の両面において、上司から受ける影響が大きく、職場風土は上司次第で決まると考えている人が多い傾向が見えてきました。先行研究※1では、職場風土は従業員のメンタルヘルスに影響を与えることが示唆されており、上司は良好な職場風土の構築に努める必要があると言えます。また、否定的・消極的な影響を与えるもの・相手として、単一回答では上司、次いで社会情勢が多く挙げられており、現在の不安定な国内外の社会情勢が、働く人により一層の不安を与えている要因となっていることがうかがえます。
二つ目に、職場風土と感情労働の関連を見ると、良好な職場風土より良好ではない職場風土の方が感情労働は発生しやすい傾向が見えてきました。先行研究※2では、良好な職場風土の特徴として「風通しが良くフラットな組織」などが挙げられ、一方良好ではない職場風土の特徴として「ヒエラルキーが厳格な組織」などが挙げられています。上下関係が明確かつ厳格な組織では感情労働が生じやすい傾向があると言えます。職場風土というものは客観的に捉えにくいものですが、社外からの視点やデータを用いるなどして、良好な職場風土を構築する職場が今後増えることを期待したいところです。
最後に、6割の職場において、情緒的疲労対策が十分に実施されていないと感じられていることがわかりました。対策されていない要因としては、情緒的疲労も客観的に捉えにくいことが考えられます。しかし、人口減少社会において働き手のメンタルダウン(心理的・精神的不調)が蓄積することは組織にとって大きな痛手となります。今後、情緒的疲労の軽減を目的とした取り組みが講じられ、メンタルダウンする働き手が少しでも減ることを願います。
【参考文献】
※1 小森隆史・高野研一(2020).“労働者のメンタルヘルス問題の予防に向けた分析-職場の人間関係ストレス高群と組織風土との関連を中心に-”.人間工学, 56巻4号, pp.138-145
※2 SOMPOインスティチュート・プラス株式会社(2025).“組織風土を従業員はどうとらえているのか?~個人の認識とその影響~”.組織風土研究会報告書2025年9月30日
調査概要
メール・ビジネスチャットツール・オンライン会議ツールのすべてを「使用したことがない/知らない」と回答した人、および調査業・広告代理店業を対象者から除き、令和2年総務省国勢調査をもとに性年代別人口構成比に合わせて割り当て2,000人を対象者とした。さらに職種別・業種別分析のために、職種・業種ごとに均等回収しながら1,000人追加し、合計3,000人に対して調査を実施した。なお、分析上、人口構成比に合わせた2,000人を全体値とする。
| 予備調査(SCR) | 本調査 |
| 調査時期 | 2025年12月2日~12月12日 | 調査時期 | 2025年12月8日~12月10日 |
| サンプル数 | 70,000ss | サンプル数 | 3,000ss |
| 対象者 | 全国18~69歳の男女 | 対象者 | 全国18~69歳の男女 |
| 調査方法 | インターネット調査 | 調査方法 | インターネット調査 |
- ※グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。
- ※全体値(2,000サンプル)の標本サイズの誤差幅は、信頼区間95%とし、誤差値が最大となる50%の回答スコアで計算すると±2.2%となります。
Text by Yoshiki Okada
Photo by Scott Graham on Unsplash