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つながりが編み出す地域の未来

持続可能な地域づくりには若者世代の参画が不可欠です。しかし、電通総研の調査では若者世代の地域への愛着や定住意欲は他の世代より低い水準にあります。若者世代の地域への本音を引き出す対話の切り口とは何か。2026年1月に小樽商科大学で「地域とのつながり」をテーマに対話の場を設けました。

データに表れる「若者世代の地域への低いエンゲージメント」

電通総研が2025年6月に実施した「クオリティ・オブ・ソサエティ指標2025※1」調査では、居住地域への愛着や定住意欲について尋ねています。地域に「愛着を感じる」「住み続けたい」と回答した割合を世代別に見ると、いずれも「18~29歳」がもっとも低い水準でした(図1、2)。

図1、2共に「そう思う(計)」は「そう思う」「ややそう思う」の計、「そう思わない(計)」は「全くそう思わない」「あまりそう思わない」の計。
  • ※1調査対象は日本全国の18-79歳の男女12,000名(都道府県と性年代の人口構成比で回収)。

「つながり」から若者世代と地域との関係を考える

若者世代の地域へのエンゲージメントが高まりにくい背景には、「地域の意思決定の場に本音が届きにくい」といった現実から生まれる若者世代特有の「もどかしさ」があると考えられます。こうした「もどかしさ」を抱く若者世代には、他の世代からは見えにくい、個々の複雑な思いや葛藤が存在していると考えられます。

持続可能な地域づくりには、そうした本音を引き出しながら、世代を超えて地域の未来を共創していく関係を築くことが重要です。

では、その本音はどういった対話から引き出せるのでしょうか?Quality of Societyセンターではそのヒントをつかむために、フラットな関係性での対話を実現する切り口を探るワークショップと座談会を、2026年1月に小樽商科大学と連携して実施しました。

小樽商科大学では正課科目である「社会連携実践」の一環として、地域のウェルビーイング向上を目的としたプロジェクトを実施しています。このプロジェクトでは、学生自身が地域の課題を「自分ごと」として捉え、まちづくりの一員としての当事者意識を醸成することを重視しています。

地域や社会の状態を学生にリアリティをもって伝えることで、意識と行動の変容を後押ししたいという大学側の思いと私たちの思いとが合致し、今回の連携が実現しました。

プログラムの企画は「社会連携実践」を担当する教員お二人と連携しながら進め、ウェルビーイングの構成要素で、地域社会とも関わりの深い社会的健康(人や社会とのつながり)に焦点を当てることにしました。

左から小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻教授・藤原 健祐氏、小樽商科大学商学部教授・大津 晶氏

「I am」から「For Otaru」への視座の拡張

地域をテーマに学生と対話するとき、いきなり「地域はどうあるべきか」という大きな主語で語り始めてしまうと、学生にとっては抽象的で実感が湧かない可能性があります。

そこでワークショップでは、学生が自己から地域へと視座を段階的に拡張し、自分自身と地域社会とのつながりを自然に感じられる工夫を施しました。

具体的には、いきなり「地域」を語るのではなく、まずは「私(I am)」を起点に、自己理解から進めるステップを採用しました。自分が日々何を大切に生活しているのか、どのような「つながり」の形に幸福を感じるのかを見つめ直し、そこから友人やコミュニティといった「私たち(We are)」に思考を広げ、最終的に「地域(For Otaru)」に自らの価値観や将来イメージを着地させるアプローチです。

ワークショップは以下のステップで進行しました。

  1. 【現状把握】データから若者世代の地域へのエンゲージメントの現状を共有する
  2. 【自己理解】どんなときに社会的健康を感じているかを「つながり」の観点から言語化する
  3. 【他者理解】私たちみんなが社会的健康を実感できるようにするためには、一人一人がどのようなことを大切にして人と関わったらいいかを意見交換する
  4. 【協働の視点】小樽でウェルビーイングを実現するためには、一人一人がどのようなことを大切にして地域社会と関わったらいいかを意見交換する
  5. 【未来創造】10年後の「理想のウェルビーイング都市・小樽」の姿を描く
  6. 【行動変容】その未来を実現するために、明日から地域とどのように関わっていきたいか(アクション)を宣言する

    「ブリコラージュ的思考」と「バックキャスト思考」

    また、ワークショップのプロセスを設計するにあたり、二つの思考法を取り入れました。

    一つは「ブリコラージュ的思考」です。これは、目の前の現実として存在するものを重視し、「今の小樽がすでにもっている資源(人、場所、文化、歴史等)」を柔軟に組み合わせながら新しい価値を生み出すという考え方です。ワークショップでは「ないものねだり」ではなく「身近にあるものを生かす」ことを前提に話し合うことを全体のルールにしました。

    もう一つは「バックキャスト思考」です。現状の延長線上で未来を考えるのではなく、「10年後のありたい小樽の姿」を先に設定し、そこから逆算して「今、自分たちに何ができるか」を考えることにしました。

    これらを組み合わせることで、現実とありたい未来を往還しながら、学生一人一人に地域づくりへの当事者意識が育まれることを期待しました。

    ワークショップ:つながりが編み出す小樽の未来像

    ワークショップには北海道で生まれ育った学生、道外出身の学生、そして海外からの留学生など、多様なバックグラウンドをもつ方々が参加しました。それぞれが「私」の価値観を見つめ直し、人や地域社会との「つながり」について共有するワークが進むにつれて、あちこちから和気あいあいとした笑い声や、本音をぶつけ合う活発な議論が飛び交うようになりました。

    生まれ育った場所も、小樽への愛着や距離感も異なる学生たち。お互いの違いを面白がりながら、今の小樽の資源を生かした学生ならではの等身大の視点で描かれた未来像と、明日からの地域社会との具体的な関わり方へと結実させていきました。

    いきなり地域の未来を考えることはハードルが高くても、自分自身が大切にする人や地域との「つながり」という日常的なテーマを対話の入り口にしたことで、身近なところから「自分ごと」としての地域との関わり方を見いだすことができた様子でした。

    【学生が生み出した理想のウェルビーイング都市・小樽の姿と、明日からの地域との関わり方】

    <一つ目のグループの発表>
    ◆理想の姿:オープンにつながるまち
    観光客や留学生、地元住民が垣根を越えて交流し、お互いの違いを受け入れながら「オープンマインド」でつながり合える小樽。
    ◆明日からの地域との関わり方
    まちの「愛(よいところ)」を見つけにいくとともに、まずは自分から地域の人に話しかけ、コミュニケーションをとってみる。

    <二つ目のグループの発表>
    ◆理想の姿:住み続けたい街、小樽
    大人のコミュニティも子どものコミュニティも充実していて、世代を問わずみんなが街を盛り上げるという「同じ志」をもつ未来。
    ◆明日からの地域との関わり方
    地域の「愛あるところ」も「憎いところ(課題)」も理解し、地域の活動や問題を自分ごとにして、地域の一員である自覚をもって参加する。

    座談会:地域と私のこれから

    ワークショップ終了後、2名の学生と大津氏に集まってもらい、地域とのこれからの関わり方をテーマにした座談会を実施しました。そこでは、今を生きる学生の地域へのリアルな価値観や、地域との関わり方に関する今後の抱負が語られました。

    聞き手:齋藤 亮、増田 圭一

    左から秦さん(1年生)、島本さん(3年生)、大津氏 ※学年は2026年1月時点
    ワークショップお疲れさまでした!今回は、「つながり」を切り口に地域との関わり方を考えるというテーマのワークショップでした。参加にあたっての期待や動機を聞かせてください。

    島本 私は就職活動中で、将来したいことを考えていくなかで「地域貢献」に興味をもちました。ボランティア活動を通して地域の人と関わることが楽しかった経験もあり、自分が今後できることを考えるきっかけになるかなと思って参加しました。

    秦 私は大学生になってから地域について考えることがすごく増えました。大学が主催する地域活性化のプロジェクトを通じて地域の人と話すなかで、実際に地域の問題を解決していくためにはどうしたらいいんだろうと考えることがあり、ワークショップでヒントをつかめればと楽しみにしていました。

    みなさんは普段、小樽という地域に対してどのような愛着や距離感を抱いていますか?

    島本 私は札幌から通っているのですが、1年生のときは小樽って「駅と大学の往復」でしかなく、勉強しに来ているだけという感覚でした。でも、せっかく小樽に通っているのだから大学が主催する地域活性化のプロジェクトに参加してみたんです。そうしたら地域の人との交流を通じてだんだんと小樽に愛着を抱くようになりました。今では小樽は「第二の地元」という気持ちです。

     私は「小樽に愛着がある」と即答できます!幼少期に隣町の余市に住んでいて小樽でよく遊んでいたことと、今住んでいる札幌は人が多くて少し疲れてしまう部分があって。都会の隣町ぐらいの距離感が自分には心地いいです。

    地域の捉え方やつながり方についてワークショップで得られた気づきはありましたか?

     同じグループの留学生の方が言っていた、「地域に対して愛と憎しみをもつ」という話が印象に残っています。これまでは、「地域の良いところを見つけて広められたらいいな」と思っていて、悪いところは「見つける」だけで終わっていました。悪いところや嫌なところも認めて受け入れ、そこで生活する。それも地域の一部として捉えるという視点にハッとさせられました。

    島本 地域とのつながり方でいうと、今までは町内会やお互いに見守るような「連帯感」をイメージしていましたが、ワークショップを通じて旅行先でのちょっとした交流や、おいしいものを食べて地域を知るといったこともつながり方の一つなんだと気づきました。最初から深いコミュニケーションを求めるのではなく、「広くて浅いつながり」から入ってもいいし、そこから発展することもあるんだなと。地域とのつながり方って多様だなと思いました。

    大津 大学生って、地域では「観光客以上、市民未満」みたいな立ち位置で、つながり方が浅くても深くても、どちらでも地域から歓迎される感じがありますよね。小樽だと「商大の学生」というだけで地域に入っていきやすいと思います。

    みなさんは今後どのような形で地域と関わっていきたいと思いますか?抱負を聞かせてください。

    島本 私はゼミで統計やデータサイエンスを学んでいるのですが、これまでは全国規模のデータなどマクロな視点で考えていました。でも、これからはもっとミクロな、ピンポイントの地域課題に対して自分のスキルがどう生かせるのか、実践的な活動につなげてみたいですね。

     まずは大学の地域活性化プロジェクトを卒業までしっかり続けていきたいです。地元での観光開発のインターンシップにも参加したいです! 視野を広げながら地域と関わっていけたらと思っています。

    大津 お二人の話を聞いていて、「鳥の目(データの全体を見渡す視点)」と、ボランティアなどで得られる「虫の目(現場の肌感覚)」の両方をもつことが重要だなと思いました。どちらか片方だけではなく、エビデンスを確認しながら現場に関わっていくことは大学生だからこそできる大きな強みですね。あと、最後に大事なこと!お二人に今日絶対約束してもらいたいことが……。10年後か20年後か、できれば私が引退する前に、「エバーグリーン講座※2」で講師をやってね。お待ちしています!

    一同 (笑い)

    • ※2小樽商科大学に設けられている、実社会で活躍する卒業生を特別講師として招く授業のこと。例年、地域で活躍する熱い卒業生が登壇している。

    おわりに:交差する「つながり」が地域の未来を創る

    今回のワークショップと座談会を通じて、語りかけ方を変えるだけで、若者世代の地域への本音は驚くほど引き出されることがわかりました。

    データ上では他世代と比べて若者世代の地域へのエンゲージメントは低く見えますが、それを「若者の地域離れ」という言葉で片づけてしまうのはもったいないことです。

    ワークショップではそれぞれの価値観に寄り添い、日常の「つながり」から地域を捉え直すことで、若者世代の奥底にある「地域に関わっていきたい」という思いが、具体的なアクションとして言語化されていきました。

    地域の未来は誰かから一方的に与えられるものではなく、一人一人の「思い」と、それらが交差する「つながり」によって形づくられていくはずです。学生たちの等身大で頼もしい言葉から、未来の地域社会を明るく照らす確かな希望を感じることができました。

    Quality of Societyセンターでは、これからも次世代との対話を通じて未来の地域社会のあり方を探求し続けてまいります。

    【藤原先生のコメント】
    今回のワークショップの成果は、若者が地域を「自分ごと」として捉え、未来像と行動を言語化したことにあります。対話を通じて地域との関係を再定義し、客体としてではなく主体として関わろうとする姿が見られた点に大きな意義を感じています。

    【大津先生のコメント】
    地域にとって「観光客以上、市民未満」であり、また「4年間の長期インターンシップ」ともいえる大学生が、このワークショップを通じて、次世代のまちづくりの担い手としての当事者意識(シチズンシップ)の大切さに気づけたことが本質的な成果であるように思います。

      Text by Ryo Saito
      Photographs by nice Inc.

      プロフィール

      藤原 健祐

      ふじわら・けんすけ

      小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻 教授

      専門は地域医療システム・医療介護経営。地域づくりでは、若者のウェルビーイング向上に関する教育・研究に取り組む。「社会連携実践」では、若者の集まる場づくりに取り組む「オアソビプロジェクト」を中心に、地域課題の解決に向けた産学官連携プロジェクトの企画・運営を担当。

      大津 晶

      おおつ・しょう

      小樽商科大学商学部 教授

      専門は都市計画・地域経営。地域づくりでは、数理モデルとデータを用いたEBPMの教育・研究に取り組む。小樽市の立地適正化や空き家対策の計画策定にも携わる。「社会連携実践」では「商大生が小樽の活性化について本気で考えるプロジェクト(通称:マジプロ)」や小樽雪あかりの路ボランティアを通じたシチズンシップ教育を主宰。

      齋藤 亮

      さいとう・りょう

      研究員/プロデューサー

      静岡県静岡市生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、(公財)日本生産性本部を経て2025年より電通総研。主な研究テーマは「地域」「人材育成」「コミュニティ」。産官学との豊富なネットワークと、地域活性化・人材育成に関するプログラム企画の経験を生かして研究活動をおこなう。法政大学大学院政策創造研究科修了(政策学修士)、社会教育士。

      増田 圭一

      ますだ・けいいち

      研究員/プロデューサー

      滋賀県生まれ。1998年に電通国際情報サービス(現 電通総研)に入社し、主に東証プライム市場に上場する企業向けに経営管理、管理会計システムの導入コンサルティングに従事した後、2025年1月より現職。地域社会と関わる中で「インクルージョン」「社会関係資本」「気候変動(農業と食)」に関心をもつ。