企業や社会の変革を通じたよりよい未来のために、課題を提言し、その解決方法を社会に実装する。それにはエンジニアリング的思考に加えて、今あるリソースを生かすブリコラージュ的思考が必要だと考えます。この二つの思考様式を事業にどのように生かすべきでしょうか?電通総研でシステムインテグレーション(SI)・コンサルティング・シンクタンクを統括する本部長3名の考えを聞きました。
事業における二つの思考様式
寺嶋 今回焦点を当てているのは「エンジニアリング的思考とブリコラージュ的思考」ですが、コンサルティング本部では、新規サービスを創出するR&Dにおいてエンジニアリング的思考を用いています。しかし、それだけではリソースやアサインメントの課題に必ずぶつかります。その時、ブリコラージュ的思考を用いて、今ある「強み」同士を掛け算することで活路を見いだしています。具体的には「MBSE※1×サステナビリティ」や「MBSE×地方創生」など、これまで独立していた自社の強みを掛け合わせて新規事業を創造しており、このようなブリコラージュ的思考は今後どの事業においても求められるでしょう。
佐藤 その通りですね。SI事業でも、かつて、新規事業創出を狙うビジネスパーソンを支援するために、独立したワードをランダムに掛け算して事業アイデアを創出するツールを提案した社員がいました。それは結果的にはビジネスになりませんでしたが、既存の強みを掛け合わせようという発想がとてもよかったと思っています。ブリコラージュ的思考によって、それまでの常識をよい意味で取っ払い、今ある素材の強みを生かしつつ、いかに変化していくか。それが重要です。
一丸 会社にはミッションがあり、その軸からずれないことが大前提にあります。そのミッションを達成するために、私はヒューマノロジー※2創発本部における事業計画を立てますが、その際のエンジニアリング的思考は非常に重要であり、情報収集は第一に取り組むべきものだと考えます。ただし、事業を進めていると社内外ともにさまざまな変化が生じます。その際にブリコラージュ的思考を用いて、環境に合わせて柔軟に変えていきます。もし間違いに気づいたとしても、原点の軸に立ち返ればいいのです。
寺嶋 高光(電通総研 執行役員 コンサルティング本部長 )
- ※1「Model Based Systems Engineering」の略で、製造業の製品設計などで活用される手法。
- ※2「ヒューマノロジー」とは、ヒューマンとテクノロジーから成る造語で、電通総研グループは「HUMANOLOGY for the future ―人とテクノロジーで、その先をつくる。―」を企業ビジョンとして掲げている。「ヒューマノロジー創発本部」は電通総研のシンクタンク部門の名称。
人間とAIがつくる未来の社会
佐藤 外部環境が変わる中でも、特に生成AIの普及は、テクノロジーの社会実装において未来を構想することの重要性をさらに高めたと思います。これまで人間が大量に時間をかけてきた大部分が、AIによって解決するようになってきています。そうなると、人間の役割とは何かについて考えざるを得ません。AIが出した答えに、人間は修正を加えることができるのか。それができる人材を企業はどのように育成できるのか。そこに、人とテクノロジーで未来をつくる「ヒューマノロジー」を追求する意義があると考えます。
寺嶋 AIが日々進化し、未来の予測はますます難しくなっていますよね。重要なのは、未来を考える頻度を高めること、極端に言えば、毎日中期経営計画を考えるイメージです。ただし、今後AIによって人の仕事のあり方が変わっていくと思います。佐藤さんの言うように、私たちはやはり人間の役割、判断や思考の価値について考えなければならないでしょう。
佐藤 現在はAIの生成したものを評価できる能力が高く評価されます。しかし、数年後には違う世界になる可能性が十分にあります。そうなると今後は既存事業だけでなく、プラスアルファの価値をお客様に提供できることが求められます。
寺嶋 お客様の要求を超える価値を提供しなければならないですね。
一丸 AIがつくるものは局所最適にとどまる可能性が高く、社会全体にとって最適な状況とは何か、そこを私たちは主体的に考えなければならないと思います。過去の延長線上で考えるのではなく、社内外の情報を広く集め、たどり着きたい未来の姿について深く考えるのです。そのためにも、各自がアンテナを高く張り、大きな変化を察知できるようになる必要がありますし、同時に第二、第三の策を用意するなどリスクシナリオをもつことも欠かせません。
佐藤 秀樹(電通総研 上席執行役員 技術統括本部長 )
二つの思考様式を行き来できる人材育成
佐藤 会社の経営を考えると、AIが発展する社会に適応できる人材を育成することが求められます。私は、社員には若い時から失敗と成功をたくさん経験してほしいと思っていますので、プロジェクトをどんどん任せています。そうしないと、自分が苦労してつくったことのないものをAIがつくったとしても、その成果物に対して評価も修正もできませんからね。だから、今後もたくさん挑戦し、失敗からも学んでほしいです。その先に自分の軸が出来上がると思っています。
一丸 プロジェクトマネジメントはAIではできないですからね。
佐藤 そうです。自分の経験値が大きな影響を与えますから。
一丸 私も同じ考えで、社員には強みとなる軸をもってほしいです。最初は社員が知識や経験を得られるよう、エンジニアリング的思考で会社が教育体系や環境を計画的に設定する必要がありますが、社会から求められるスキルは随時変わっていきます。そこでブリコラージュ的思考を用いた柔軟な方向転換が必要なのです。エンジニアリングとブリコラージュという二つの思考様式の行き来を得意とする人材が組織に増えれば、競争力をもちながら環境変化の中で生き残れる組織に近づけると考えます。そういう観点で人材育成をしなければならないと思います。
寺嶋 私はすべてにおいて社員が自分ごと化できるように導いてあげることが大事だと考えます。会社から出されているMVV※3を、社員は自分の言葉に置き換えてほしい。また、社員が挑戦するための心理的安全性の確保を心がけています。挑戦の繰り返しにより、自分の軸が出来上がっていくからです。不確実性が高いこの社会において、軸がないと簡単に揺れてしまいますから。
佐藤 揺るがない軸を築くためには、自分の強みを理解することが不可欠です。ただし、人材育成におけるエンジニアリング的思考の懸念点として、評価が減点方式になりがちであることが挙げられます。「実行できて当然」という考えが前提にあり、社員を褒めて育成することを困難にしている気がします。人材を生かすという観点からも、ブリコラージュ的思考を取り入れ、成果が出た際にはしっかりと称賛することが非常に重要です。
一丸 同感です。人材を生かすという点で、私は組織という枠に余白をつくることに努めています。組織の方向性の大筋は示しますが、その中で社員には自由に活動してもらいたいと考えています。そうすることで、みんなが新しいことに挑戦しやすい組織になると思うからです。これからは、ブリコラージュ的思考をうまく使えるような場を提供することが、どのような組織においても大切だと思います。
一丸 丈巌(電通総研 執行役員 ヒューマノロジー創発本部長 )
- ※3MVVとは、企業のミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)の頭文字をとった言葉。企業の存在意義や目指す方向性、価値観を明確にするもの。
【鼎談者一覧】
佐藤 秀樹
電通総研 上席執行役員 技術統括本部長
最近の関心事は「技術と組織の進化がキャリアを開き、社会に価値を生むこと」
一丸 丈巌
電通総研 執行役員 ヒューマノロジー創発本部長
最近の関心事は「AIが人・企業・社会にもたらす恩恵と弊害」
寺嶋 高光
電通総研 執行役員 コンサルティング本部長
最近の関心事は「和の心と技術で築く持続可能な豊かさ」
Text by Yoshiki Okada
Photographs by Masaharu Hatta