なぜ人は“感情的な場面”では、対面よりデジタルでの会話を選ぶのか。働く人の本音と、これからの職場づくりに役立つコミュニケーションのヒントを調査結果から読み解きます。
◎「電通総研コンパスvol.16デジタルコミュニケーションと感情労働に関する意識調査」レポート
1. 感情的なやり取りが多い場面で使いたいデジタルコミュニケーション
仕事における対面コミュニケーションとデジタルコミュニケーションの割合を合計100になるよう回答してもらったところ、対象者2,000名の平均は対面コミュニケーションが66.8、デジタルコミュニケーションが33.2という結果となりました。
次に、職場の場面ごとにおけるデジタルコミュニケーションについて尋ねたところ、「自分の職場では、感情的なやり取りが多い場面では、対面よりデジタルでのやり取りを選択したいと思う」と回答した人は59.0%で、デジタルでのやり取りを選択したい人が多い傾向が見られます。
また、「否定的・消極的な気持ちの時は、対面よりデジタルでのやり取りを選択したいと思う」と回答した人は59.1%で、こちらもデジタルでのやり取りを選択したい人が多い傾向が見られました。
これらの結果から、感情的なやり取りが多い場面、否定的・消極的な気持ちの時にはデジタルでのやり取りを選びたい人が過半数であることがわかりました。
2. デジタルコミュニケーションのメリット・デメリット
デジタルコミュニケーションのメリットに関して自由回答で尋ね、その回答をもとに共起ネットワーク図※1を作成しました。そこから得られたのは、次のような事柄です。図にあるSubgraph※2番号と対応する形で整理しました。
- ※1テキストデータ内の「よく一緒に現れる語」同士を線で結び、関係性を可視化した図。なお本記事では、テキストマイニングソフトであるKH Coder(ver.3.0、樋口耕一)を用いて自由記述データの分析をおこなった。形態素解析にはMeCabを使用し、主に名詞を対象として抽出した。分析に当たっては、最小出現回数を設定した上で共起ネットワーク分析を実施し、語と語の関係性を可視化した。
- ※2関連性の強い語ごとに自動で分類され、色分けされたもの。
A:時間・場所の制約解消(02,03)
遠方の相手と場所を問わず話せるため、地理的な制約が小さくなるという回答、そして時間に縛られず、必要なときにすぐ連絡できるという声が挙げられました。
B:コミュニケーションの効率化(01,08)
相手や自分の都合に合わせて調整しやすく、コミュニケーションの効率が上がる点が挙げられました。情報共有しやすい点にもメリットを感じているようです。
C:働き方の柔軟化とコスト削減(04,05)
移動そのものが不要になるため、時間的コストが削減されるようになるなど、柔軟な働き方が可能になったという意見が挙げられました。
D:情報の記録と蓄積(06)
情報の保存・共有に関する利点なども確認することができました。
*カテゴリー名横の数値はSubgraph番号。07は、デジタルコミュニケーションは必要ないという回答のため省略
デジタルコミュニケーションは、利便性の向上にとどまらず、組織における業務設計や働き方の柔軟性を支援していることが示唆されました。
同様に、デジタルコミュニケーションのデメリットについての自由回答の共起ネットワーク分析の図を作成しました。そこから得られたのは、次のような事柄です。
A:情報伝達の質の低下 (02,06,07,11)
直接会って話すことと違い、細かなニュアンスが伝わらなかったり、非言語情報が欠如したりするため、相手の感情を把握することが難しく、結果的に情報伝達の質が低下するデメリットを感じているようです。
B:コミュニケーションの遅延・不足 (01,04,08,09,10)
通信環境の影響を含め、相手からの返信が遅かったり、やりとりにタイムラグが生じたりするなどして、意思疎通に困難を感じる声、コミュニケーション不足が生じる声、関係性の希薄化を懸念する声が挙がりました。
C:情報量・作業量の負荷 (03,05)
テキストでのコミュニケーションでは文章作成という新たな仕事が増え、文章だからこそ情報量を詰め込むことができる一方で、受け手側が情報過多状態に陥る傾向が見受けられました。
デメリットは単なる不便ではなく、 職場の人間関係に影響することが示唆されました。
3. 新たなデジタルツールには、生産性向上より情緒的疲労の軽減が期待される
デジタルツールを導入したことによる業務量の負担/心理的負担/時間的負担の増減についてそれぞれ尋ねたところ、いずれもデジタルツールの導入によって負担が減ったと回答した人の割合が6割台となりました。
また、新たなデジタルツールの開発に期待する事柄に関して尋ねたところ、「職場の情緒的疲労を減らす」ことに期待する人が61.6%、「職場の生産性を高める」ことに期待する人が38.4%となり、新たなデジタルツールには生産性向上より情緒的疲労の軽減を期待する人が多い傾向があることが読み取れました。
デジタルツール導入に一定の効果を実感する人が過半数を占める一方で、働く人が求めているのは効率だけでなく、 感情面の負担を軽くすることであることが示唆されます。
<まとめと考察>
本調査からは、働く人がデジタルコミュニケーションに求めるものが、単なる効率性ではなく「感情」への配慮にあることが浮かび上がりました。
まず、感情的なやり取りが多い場面では、対面よりデジタルを選びたい人が多い点が特徴的でした。先行研究※3でも、不安や緊張が相手に伝わることへの恐れがコミュニケーション回避につながるとされており、デジタルはその負担を和らげる役割を果たしていると考えられます。
次に、デジタルコミュニケーションには時間・場所の柔軟性や記録性といった利点がある一方で、相手の意図や感情が読み取りにくいという課題も確認されました。これは、職場の対話の質低下や関係性の希薄化につながる可能性があり、対面とデジタルをどう組み合わせるかが重要になります。
さらに、新たなデジタルツールに期待される点として、「情緒的疲労の軽減」が「生産性向上」を上回ったことは象徴的です。働く人が求めているのは、“安心してやり取りできる環境”であることが示唆されます。新規のツール開発や導入・運用においては、感情負荷の低減を中核的な論点として位置づけることが重要といえます。
【参考文献】
- ※3Hackmann et al. “Recurrent images and early memories in social phobia”. Behaviour Research and Therapy, Volume38, Issue6,1 June 2000, pages:601-610
調査概要
メール・ビジネスチャットツール・オンライン会議ツールのすべてを「使用したことがない/知らない」と回答した人、および調査業・広告代理店業を対象者から除き、令和2年総務省国勢調査をもとに性年代別人口構成比に合わせて割り当て有職者2,000人を対象者とした。さらに職種別・業種別分析のために、職種・業種ごとに均等回収しながら1,000人追加し、合計3,000人に対して調査を実施した。なお、分析上、人口構成比に合わせた有職者2,000人を全体値とする。
| 予備調査(SCR) | 本調査 |
| 調査時期 | 2025年12月2日~12月12日 | 調査時期 | 2025年12月8日~12月10日 |
| サンプル数 | 70,000ss | サンプル数 | 3,000ss |
| 対象者 | 全国18~69歳の男女 | 対象者 | 全国18~69歳の男女 |
| 調査方法 | インターネット調査 | 調査方法 | インターネット調査 |
- ※グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。
- ※全体値(2,000サンプル)の標本サイズの誤差幅は、信頼区間95%とし、誤差値が最大となる50%の回答スコアで計算すると±2.2%となります。
Text by Yoshiki Okada
Photo by Scott Graham on Unsplash